安心・安全を前面に押し出す新SNS
バンダイナムコの小学生向けSNS「TamaGoLand(たまGOランド)」が5/1に正式オープンしましたね。
紹介記事冒頭の「『たまごっち』のキャラクターと遊びながら」の部分は、かろうじてイメージできそうですが、「子どもたちだけでも安心・安全に利用できるさまざまな機能・サポートを搭載する。友だちにメッセージを送るなどのコミュニケーションをしながら、ネットサービスへの対応力や利用ルールが自然と身につく仕組みになっている。」と簡潔に書かれても、一体何をもって安心・安全というのか、他のSNSとの違いがどこにあるのかが判然としません。TamaGoLandサイトの「保護者のみなさまへ」を見ながら、もう少し掘り下げてみましょう。
安心・安全のための運営ポリシー
運営者ポリシーの一つに「安心・安全で楽しい「インターネット体験の場」を作る」と題して、
- 不適切なメッセージをチェックしています
- 個人に関係する情報が変更された場合は保護者へ通知します。
- お金を使い過ぎることはありません
という三点が宣言されています。
実のところ、一点目については最近では、他の国内大手SNSでも普通に行われるようになっていることですから、この宣言だけでは違いがあまり分かりません。しかし、二点目と三点目を運営ポリシーとして明確に掲げているサイトはまだ珍しいですね。
特に三点目の宣言は、コミュニティ/ゲームサイトでの高額課金が話題になる最近では、保護者にとって確かに「安心」のポイントと言えそうです。※1
※1 ゲームやアバター(キャラクター)アイテムの買い過ぎ(使い過ぎ)対策としては、「未成年者に限って月額5千円」など上限設定のことを指すサービスが少なくありません。TamaGoLandでは、無料サービスとは別枠の有料会員コースを定額制で提供するとのこと。その「月額525円」と有料/無料サービス内容のバランスがそれぞれ適当かどうかはさておき、この仕組みであれば「保護者が知らない間に高額請求になることを防げる」ことはもちろん、「子どもが年齢を偽って登録する」などの心配も不要なわけです。
オープンなコミュニケーションとクローズなコミュニケーション
しかし、他サービスとTamaGoLand(あるいはバンダイナムコ社)との「安全」についての取り組みの本質的な違いは、同ページ中段以降にある「子ども向けネットサービスならではのしくみ」で説明されている、以下の二点に集約されています。
当たり前のように書かれ、読み過ごしてしまいそうなこの二点こそが、バンダイナムコ社が小学生のインターネット利用能力の実際や、類似サービスでのトラブル発生の状況を見きわめ、今回の新サービスの設計の根幹に据えた大切なポイントと言えるでしょう。
- オープンなコミュニケーションシステム
(ユーザ間の送受信はすべての登録ユーザから閲覧できる) - サービスの段階的な体験
(ユーザの利用状況と理解に応じてメッセージ機能を段階的に開放)
一点目の「オープンなコミュニケーションシステム」を提供しているのは、TamaGoLandだけではありません。類似のコミュニティサイトでも、掲示板や日記へのコメント欄のような機能として提供されているものです。しかし、それに加えて「クローズなコミュニケーションシステム」(と書いてしまうと分かりにくいかもしれませんが、当該サイトにログインすると会員同士だけで利用できる「専用のウェブメール」だと思えば良いでしょう。呼び名は「ミニメール」などサイトによって様々です。)も提供されるのが通例です。そして、ここが深刻なトラブル※2の源になっています。
※2 具体的には、最も注意が必要なトラブルは「悪意のある大人が年齢や性別を偽るなどして、未成年者に近づく」というものでしょう。結果として性犯罪被害に遭うケースが少なくありません。またそこまで行かず、子ども同士であっても、コミュニケーションの行き違いを起こしたり、いじめなどの攻撃的な使い方になってしまうことが少なくありません。
いずれも「他人の目に触れないで直接メッセージのやり取りが出来る」というサービスの特性と、利用者側の能力/知識/経験のギャップが引き起こすトラブルと言えます。そこで、国内の大手コミュニティサイトの一部では、掲示板のようなオープンな場でのやり取りだけでなく、1対1のやり取りがされているミニメールについても監視の対象として、トラブルの抑制に努めるようになりつつあります。
一方、TamaGoLandでは、利用者にとっての利便性を犠牲にしてでも、この部分の機能を提供しないと決めたわけです。小学生向けサービスと割り切っている同サービスだからこそ出来た英断と言えるでしょう。
ネット上の自動車教習所的なサービスを模索
二点目の「サービスの段階的な体験」は、他サイトではほとんど見られない特徴と言えるでしょう。
運営側は、利用者がメッセージサービスを使って相手に気持ちを表現する際に、最初は「スタンプ」だけを許可し、その後、所定のレクチャーを受け、テストをパスした利用者(子ども)だけに、自由なテキストのやり取りを認めます。それでも不注意や理解不足から、不適切な発言を書き込んでしまった利用者に対しては、一時的にメッセージ機能の利用を制限するという、いわば「教育的な配慮」※3を組み込んだ、手の込んだサービス設計になっているのです。
※3 同社の考え方や理想については、専門媒体Internet Watchによって、詳しく報じられています。Twitterで大失敗をやらかす前に――バンダイナムコが小学生向け仮想空間 なお、記事中には出て来ませんが、同社が以前提供していたコミュニティサービス「サークルリンク」の経験が今回のサービス設計にもキチンと活かされていると思われます。
複数社による参入と「子ども向けの配慮面」での競争に期待
今回のTamaGoLandの取り組みが、どのように子どもたち、そして保護者に理解されるかはまだ分かりません。バンダイナムコ社も営利企業なのですから、一定以上の収益を上げることで、サービスを持続させる必要があります。
しかし「インターネットは大人のメディア」「全てを自己責任で」と突き放すだけでは、より多くの子どもたちが必要な経験を積んでいくことが難しいのもまた明らかでしょう。
TamaGoLandのような配慮がなされた子ども向けのサービスが、日本国内市場でも複数提供され、子どもたちがその興味関心適性や、能力発達に応じて、無理なくインターネットのオンラインコミュニケーションを学ぶことができる場が広がっていく事を強く期待したいと思います。
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